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鈴木沙知さん(38回生)

和太鼓集団志多ら(20才の時に入座、 23才の時に再入座)

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【子供の頃】
兄弟は姉と弟。外に出ることが嫌いで、一人で部屋の中で絵を描く事が好き、友達にセーラームーンを、弟にはドラゴンボールの絵を描いてあげたり、 とても内向的な子供でした。運動好きそうだねってよく言われますが、体を動かす事はすっごく苦手、でも小学校の頃はスイミングだけはやっていて、部活も水泳部、中学の時は手芸部をやっていました。
子供の時に、母親が志多らが好きで、演奏会があると、見に連れていってくれたりしていました。高校の入学体験で和太鼓部を見学、「これだ!」と思い豊丘を受験しました。

【高校時代】
念願かなって入学、和太鼓部に入部したものの、先輩について行くのが大変、でも楽しい気持ちが勝って、とにかく早く出演したいと思いました。 けれど下手な自分は殆ど出番がなく(燃える闘志はメラメラ出ていたようですが)ホラ貝のパートなら出演できるかと、毎朝誰もいないグラウンドに向かい、 音が出るまで1か月吹き続けました。
私は生活文化科で、授業選択は全部被服にして、毎日ひたすら何かしら縫っているという状況でした。デザイン画を描いて、予選を通過すると、実際に服を作ったりしていました。それに部活では自分たちの代で朝練をやりたいと先生に頼み始めたので、課外に部活と制作、授業中疲れてきって寝ている私を「おい鈴木、終わったぞ」と何度も起こしてくれた先生もみえました。
そういえば、新入生歓迎会で和太鼓部の男子部員を増やそうと、全国大会演目「鬼炎」のセンターを、長い髪をバッサリ切って演奏したんですけど「あの男の先輩に…」と、逆に女子部員が沢山入ってきちゃって…(笑)
帰省時に指導下さった松井先輩、全国大会応援に来てくれるOBの方達、指導を通じ先輩や後輩と仲良くなりました。自分も卒業してからも、後輩の応援に行ったり、とても繋がりの強い部でしたね。  
あ、渡邉先生は、もう「怖い」の一言ですよね(笑) でも、礼儀作法や人間関係の繋がりを教えていただき、太鼓指導の板垣先生には、太鼓の楽しさを、教えていただき、心から感謝しています。
そして忘れられない出来事がありました。二年の県大会を観に来てくれた見知らぬおばあちゃんが、涙を流して下さって「本当にいい太鼓をみせてもらった」って、それまでは、ただ太鼓を叩いて楽しいっていうだけだったんですけど、人を勇気づける事ができる楽器なんだって、初めて人の言葉を聞いて感じ、今でもそれが、私の「元」となっています。

【卒業して】
卒業する時は志多らに入る気はなく、全国大会に行った折、全国各地の神楽や民舞、伝承芸能の衣裳を見て、裏方で衣裳を作る人になりたいと思い、豊橋にある大場和裁学院に行きました。
その後、後輩の太鼓を観に行ったり、志多らの太鼓を観たりしているうちに、衣裳を縫うより、舞台に立って太鼓を叩きたいなって思い出したんです。

【志多らに入座】
芸の世界は厳しいのですが、豊太鼓は上下関係厳しく、先生にも厳しく躾けていただいたので、すんなりと入る事ができました。あっ、こういうもんだよねって。入口はすんなりだったんですけど、なかなか体がついて行かなかったり、打ち方からバチの握り方、手の上げ方、打面に入るバチの角度、手首の使い方など全部違いましたから、それを直すのが大変でした。
志多らの本拠地は、東栄町の山の上、廃校になった旧東園目小学校で共同生活を送っています。仕事は幅広くて、大きな公演の他、4人とか3人編成で小さな保育園に行くこともあれば、文化庁の芸術事業、小学校の芸術鑑賞会、海外のかわったお仕事や、日本でやる外国人向けパーティーだったり...とにかくいろんな仕事をしています。
休みは多い時で月4日、出演の無い日は、朝6時から東園目を1周回って3kmコースを4周。ランニングしていると、村のおじさんが、春になると伸びてきた竹の子を足で折って、お前ちょっと持ってけって呼び止められて、そのまま1週ランニングして戻るなんて事もありました。 地域の人は優しいですね。いつも皆さんの理解と協力を得て、やらせていただいております。
普段は朝食後、太鼓のケア、研修生は筋トレ、私は衣裳直し、大道具や学校公演などでの音響照明も自分たちの仕事なので、道具直しから太鼓に係る仕事を、みんなで分担します。午後は全体の稽古、夜は個人稽古です。全体の稽古で出た自分の課題は次の日の手合せまでに自分で修正、朝早く笛の稽古をしたり、踊りの稽古をやったりしています。また共同生活なので、各自衣装の洗濯や、食事の当番表もあり(男性もよい奥さんになれるんじゃないかな)とにかく次の日が早いので、10時にはクタクタになって就寝します。

  (怪我による退団、そして再入座)

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20才で入座して二年弱で腰を痛めてしまいました。その時既にアメリカツアーが決まっていて、ビザをとった直後でした。皆は海外に行って頑張っているのに...苦い経験でした...治療しながらも、志多らのメンバーとは繋がっていて、ロルフィングという治療法を教えてもらい、それでだいぶ良くなって、23歳で再入座しました。その時はまた、一から研修生として出直しだったので、これが一番つらかったです。同期や後輩が先輩になっていて...辞めた後も、志多らの舞台を観ていて、皆と一緒にこの舞台に立ちたいと... とにかくその気持ちでやり通しました。
志多らは、みんな太鼓が好きで来ているので、先輩も親身になって話を聞いてくれたり、夜の稽古の時間で教えてくれたり、とにかく好きじゃなければ出来ない仕事ですよね。

【蒼の大地という舞台との出会い】
蒼の大地は、2011年の震災が起きた時に制作段階だったので、物語とかぶる所があり、自分たちが表現する事で少しでも日本が元気になって欲しいと、各地の公演で避難している被災者を招待し、応援をしています。それぞれの配役は、今の自分に足りないものを...で、私は「全てのものを分け与えることを忘れないで」という鬼神様からの約束。その為、物語を読み込み、人とのかかわりなど、一生懸命勉強する事で、考えを深めました。全員で配役の曲をイメージ、それぞれが探求し、舞台全体が大きなパワーになっていきました。
40数回の公演、曲の内容は変わってないんですけど、公演を重ねる毎に変わってきて、3年かけてやっと、その鬼神になって来たという感じです...4月4日に名古屋公演、その後、東京、大阪、最後の公演は5月29日、以前、試演会が行われた新城文化会館で大ファイナルとなります。

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和太鼓っていうのは、楽器自体にすごい力があると私は思っているんです。 まず木を伐採しくりぬいて、牛の皮を張って、バチも自分たちで手づくり、打つだけで自分も元気をもらえるし、例えば10人が心をそろえて打つと、単純に×10じゃなくて、波動とか響きが倍増して、さらに会場にいるお客さんと心が合った時に、×人数ではない大きな感動が生まれ、響きを通して心がつながってゆくんです。
「蒼の大地」という曲では、感覚的にお客さんと気持ちがつながった感じがして、涙が出る事があるんです。 どんなに苦しい稽古や辞めたい事があっても、これを経験しちゃうと、やっぱり辞められないな、と思います。豊橋の小学校で演奏を聴いた小学生がチラシを握りしめ「どうしてもこれ行きたい」とお母さんに頼んで来てくれたりと、嬉しい事も沢山ありました。

【これからの展望】
「蒼の大地」の鳥鬼神という役をやらせてもらっているんですけど、それをきっかけに日本舞踊を習い始めたんです。2年くらい前から、月に1~2回名古屋の先生の所で、日舞の基礎を身に着けている段階です。それを志多らの舞台で活かして行きたい、日本の伝統芸能を、若い人達に身近な所で知ってもらい、その良さに気づいてもらいたいです。 まずは5月の公演をしっかり終え、次の目標は、来年から新しくツアーをスタートする予定...
それに向けても、制作を始めているところです。

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【若い人達へのメッセージ】
これまでやってきた事は、高校でやってきた事が活きているので、何一つ無駄な事は無かったなって...狭い世界で人と比べず、若いうちに色んな舞台を見たり、スポーツをやったり…今、自分のやってる事の有り難さだとか、生きていることが当り前じゃないこととか、広い世界を見聞きして、感じて欲しいですね。私も回り道をいっぱいしましたけど、結局これが私の道。神様が必要な事と与えてくれて、今の自分があると思えばいいんです。

【取材を終えて】
志多らさんの公演は以前から、また蒼の大地は二回観せていただきましたが、その感動の意味が良く分かりました。シンプルに洗練された舞台美術と衣装、美しい笛の音や太鼓の響き芸術性の高さだけではなく、そこには純粋で崇高な魂が込められていました。怪我の末、研修生から始まった沙知さんの苦労...舞台に立つ喜びは、多くの感謝の思いに包まれている事を改めて知り、胸が熱くなりました。素敵に活躍する豊丘の新星、鈴木沙知さんの姿を、皆さんも是非一度、舞台でご覧になってください!
                                14回生   すぎうらよしこ

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